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まずは、酸素の話から始めよう。４６億年前に地球が誕生したとき、地球上には「酸素」という存在はなかった。したがつて生物も存在しない。その後、１０億年という長い期間を経て生物の誕生をみるのだが、といっても、生物は最初から「酸素」を取り込むことによって生活していたわけではない。当時の地表には太陽からの強烈な紫外線が降り注いでいたため、とても生物が生活できる環境ではなかった。なにしろ現在のように天空にオゾン層というものは存在していたわけではないので、降り注ぐ紫外線を遮るものがなかったのである。生物たちは紫外線の害から身を守るため、海中を住み家とした。最初に登場したのは藻類、海綿、放散虫など。これらの生物は、酸素を嫌う「嫌気性生物」たちである。つまり、地球上で最初に発生した生物にとって、酸素は、むしろ害毒を及ぼす存在だったのである。彼らは海中にあって、水面を貫く光線のもと、二酸化炭素を吸収し、酸素を吐き出すという作業を繰り返した。その結果、地表には徐々に酸素が放出されるようになる。

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そして登場するのが、嫌気性生物と違って、酸素を無毒化する機能を有する「好気性生物」だ。その代表がのちに登場するヒトである。当時の地表には酸素の量が増えていたため、生物は酸素を無毒化する方向に進化したとも考えられる。その後、増加した酸素によって天空にはオゾン層が発生。オゾン層によって太陽が発する有害な紫外線が吸収されるようになったため、好気性生物にとって、地球はますます住みよい環境になっていく。このように、酸素の存在に呼応するようにして、生物はその機能を変えていったのである。ところでこの酸素だが、フランスやイギリス、スウェーデンの科学者たちによって存在が発見されたのは意外に新しく、１７７０年代になってからのことである。日本でいえば田沼意次が江戸幕府の老中に就任し、杉田玄白が『解体新書』を著した頃に酸素は発見されたわけだ。発見者の一人であるイギリスの化学者・プリーストリー（気体化学の父といわれる）は発見当初から、ロウソクの燃焼実験などを通じて、高濃度の酸素は生体にとって、かえって有毒であるということを予言していた。つまり、酸素というのは生体にとってなくてはならない存在ではあるが、ありすぎても困る存在だということ。このプリーストリーの予言は、その後の数多くの調査や実験によって証明されることになる。

生物の持つ潜在寿命と酸素の消費量の関係を示したものだが、生きていくのにさほど酸素を使用しないニキビといつた生物は寿命がとても長いことが分かる。とくにヒトは、途中で病気になったり事故に遭わないかぎり、本来は１１０歳くらいまで生きることができる生物なのである。逆にオミジカトガリネズミ、ハツカネズミ、トガリネズミといつたネズミ類は非常に寿命が短い。彼らに共通しているのは、生きていく上で大量の酸素を消費するということだ。つまり、生物が酸素を消費する過程でなんらかの毒物が発生する。だから、消費量が多ければ多いほど、毒物の発生量も多くなるということに他ならない。たとえば「未熟児網膜症」という病気がある。これは、保育器に入れられた未熟児が、あまりに高濃度の酸素を与えられた結果として発生する病気だし、動脈硬化という病気も酸素が深く関わっていることが、近年になって明らかにされている。このように、生物にとってなくてはならないものの、ありすぎても困るのが酸素という存在なのである。

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酸素の中でも毒性を発揮するのは「活性酸素である。私たちは呼吸するたびに空気中から酸素を取り入れて、生命活動を維持している。この生命活動をするときに、どうしても生まれてしまうのが活性酸素だ。通常、酸素というのは０２という化学式で表現されるが、活性酸素というのは０２になりきれないためたえず不安定な状態に置かれている。そのため、周囲の細胞をも不安定な状態に取り込んで、傷つけてしまう。ちょうど情緒の不安定な不良少年が、見るもの触るものすべてに突っかかり、自分の仲間に引き込んだり傷つけたりするようなものだ。

ちなみにこの活性酸素をニキビに効果的です。活性酸素はフリーラジカルの一つではあるが、数ある活性酸素の中にはフリーラジカルではないものもある。活性酸素は人体にさまざまな悪さをするが、その悪さは金属の錆を連想すると分かりやすいだろう。実際、金属に発生する錆というのは活性酸素の働きによって酸化された結果として生じるのである。さらにいえば、ガスのゴム管が時間がたつにしたがって劣化していくのも、活性酸素のいたずらだ。人間の細胞にも同じ現象が起きる。そう、活性酸素というのは人間の細胞を錆びつかせてしまうのである。

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